フラット35のCMが好きだ。

  むかしよく流れていた、フラット35のCMが好きだ。フラット35とは、住宅金融支援機構という独立行政法人が行う、家を買う際に住宅ローンを組んだときにその金利が最長35年間固定されるという制度だ。最近は超低金利なので変動金利の方がおトクだが、今後金利が上がったらどうしよう、と心配な人にとって長期間の固定金利は心強いだろう。

 

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 要は、フラット35は「もっとたくさんの人に家を買ってもらう」ための仕組みである。住宅金融支援機構の使命は「住まいのしあわせを、ともにつくる。」とある。家を買えば国民はしあわせになれるし、生活も安定するから国にとっても良いことだ。そういう想いがフラット35には込められているだろう。

 

 だからこそ、フラット35のCMは「しあわせ」で溢れている。軽快な音楽と同時に映し出されるのは、住宅ローン返済5年目だという家族のワンシーンだ。仕事を終えマイホームへと家路を急ぐ夫を、玄関で妻と娘が「おかえりなさい」と出迎える。今日は娘の5歳の誕生日パーティーで、皆でケーキを囲みながら両親は子の成長に目を細める。家は新築だったようで新しく、家具や家電、娘の遊び道具がところ狭しと置かれている。3人の笑顔をバックグラウンドに、「家を持ってから、私たちはもっと家族になった。」というメッセージでCMは締めくくられる。

 

 彼らはしあわせそうだ。少なくともぼくは、この風景がしあわせの形の一つであると思う。

 

 かつては「家は一生に一度の大きな買い物」という考え方が当たり前だった。若き頃の木賃アパートを振り出しに、社宅や賃貸マンションを経て、庭付き一軒家を購入することが夢であった。今でこそ多様な生き方があり、必ずしもマイホームを得ることが正解とは言い切れない。

 

 家を持ってから、彼らはもっと家族になっただろうか?自分たちだけの城を持てた喜びは大きいはずだ。何よりも自由が手に入る。自分の家なんだから、好きにしていい。生活音や子どもの声を気にする必要はもうない。

 

 しかし、引き換えに彼らは数千万の負債を背負うことになる。毎月必ず到来する引き落とし日に備え、一定の給料を稼ぎ続けなければならない。それがこの先35年間続くプレッシャーは計り知れないだろう。だから、突飛なことはできなくなる。安定した仕事を辞めて、夢だった宇宙飛行士の試験にチャレンジするなんてできない。ローンが払えないし、妻が止めくる。離婚も難しい。名義変更もなかなか認めてもらえないし、売却するにも残債を上回る額になるとは限らない。

 

 なるほど、家を持つことは、彼らをもっと家族にするだろう。家を持つこととはすなわちローンを背負うことである。完済という大目標を達成するには、家族みんなが同じ方を向いていないといけない。このCMの家族の完済への道のりはまだ始まったばかりだ。30年後、娘が35歳になったとき、彼らは誕生日パーティーをするだろうか。彼らはまだ、家族だろうか。このCMの強烈なしあわせを目の当たりにしたとき、ふとそう考えてしまう。